君が怒った 僕も負けずに怒った

子供のけんかみたいだ 君はぼくのともだち






「席取りゲーム」








大学には500人近く入れる大きな教室がある。

3つの大きなブロックに分かれていて、一列に詰めれば6人ほど座れる席が後ろにずらーっと並
んでいる。

少しずつ段差ができているので、後ろのほうは前から見ると見上げるような感じになっていて中
々壮観だ。

俺はいつもこの授業は、黒板に向かって右のブロックの前から2番目、中央ブロックとの通路側
に座って受けている。

今日も今日とて同じ席に座った。テストもそれなりに近いし、出席率もそこそこな俺としては今
日行われる小テストを受けないわけには行かなかったのだ。

しかし――





「そこ、どいてくれない?」

涼しい声が頭の上から聞こえた。

机に突っ伏していた顔を思わず上げると、女の子が俺を見下ろしている。

「そこ、どいてよ」

もう一度言った。さっきより強い口調。自分は正しいってカンジがひしひしと感じられて、ちょ
っとカチンとキた。

「何でどかなきゃいけないんだ? 他にも空いてる席はいっぱいあるぜ」

「私いつもそこに座ってるの。ここの席が一番見やすくて好きなの」

「俺だっていつもここに座っている」

「私、見たこと無い」

「俺だってお前なんか見たこと無い」

お互いに睨み合う。きっと目を逸らした方が負けだ。

「…………」

「…………」

『んんっ』

マイクを通しての咳払いがした。はて、マイク……?

『君達、授業を始めてもいいかな?』

「「す、すいません!!」」

気づかなかったがとっくに講師は来ていたようだ。

周りの生徒も興味津々とばかりに俺たちを見ていた。

慌てて席に着こうとして、また睨み合い。

埒が明かない。

「……こうしよう。今日はお互いこの席は使わない。次の授業からは小テストの点数が高かった
ほうが使う。どうだ?」

「いいわ、そうしましょう」

一つ後ろの3列目に女が座る。俺もその隣に座った。カンニングや誤魔化し防止のためだ。

講師がテスト用紙を配り始めたので鞄からめがねを取り出し身に着けた。

この勝負――負けられない!!

……はて、そんなにモメるような事だったか?







テスト終了後、ちょうど昼時だったので学食へ行く。

なんかモメてる相手と一緒に飯を食おう、なんてのはとても奇妙な感じだ。

食堂はオーソドックスな食券形式。食べるものを買って運良く空いていた二人がけの席に滑り込
んだ。

「あんた、そんなんで足りるの?」

俺の前にはハムサンドとペプシツイスト。こいつは唐揚げ定食と烏龍茶だ。

「俺は燃費がいいからこれで足りるんだ。お前は……多いのな」
「う、うっさいわね〜。私は普段から動いてるからいいのよ」

じーっと、向かいに座るこいつを見てみる。

髪は少しだけ茶色(この場合は栗色か)で、肩口くらいまでの長さでシャギーが少し入っている。

目は切れ長で冷たそうなイメージがする。が、結構整った顔立ちだ。

服もキャミソールに黒の薄い上着で、紫外線対策もしている。身長もまあまああるし、ジーンズ
のラインから察するに足も長くて細い。

「な、なによ?」

少し顔が赤くなっている。露骨に見すぎたかもしれないな。

「いや、自分で言うだけの事はあるな、って」

「なっ………!!」

ぎゅっ、と胸の前で腕を交差させて俺をきっ、と睨みつけた。

顔がこれでもかってくらいに赤くなっているので、全然怖くない。むしろ――

「くっ……って、なんでこんなに和んでるのよ!! さっさとケリつけちゃいましょ」





「ケリって、なんだっけ?」





そういやなんでこいつとメシ食ってんだっけ?

いや、誓って言うがこの御笠 和真、若年痴呆症などということは無い。

ただ、他の人より物事にたいする執着感が薄いだけだ。

「――あんたって、よく人に天然ボケだとか言われない?」

「ん、たまに。よく判ったな」

深い、深い溜息をつかれた。失礼なヤツめ。

「いい? 私達はさっきの講義であの席をどっちが使うかっていう事でモメてるの。それで小テ
ストで勝負することになった。というか、そう言ったのはあんたでしょうがっ」

「……ああ、そうだった」

別に忘れてたわけじゃないけど、結構記憶の隅の方に行っていたようだ。

「もういいから、さっさと終わらせましょ」

バックの中からプリントを取り出してテーブルの上に伏せる。

「…………」

「…………」

「じゃ、いくわよ?」

「ああ。文句は無しだからな」

「判ってる。……せーのっ」

「「勝負!!」」







友達と話していたせいで少し授業に遅刻してしまった。仕方ないので、後ろからこっそりと教室
に入った。

大学のいいところは、遅刻しても早退してもサボっても咎められない事だよな〜、とか思ってみ
たり。

「遅かったじゃない。授業サボるかと思ったわ」

「悪い。のんびりしてたら時間過ぎてたわ」

左ブロックの前から二番目、中央ブロックよりの通路側。

そこには彼女――百瀬 茜――が座っている。

あの日、俺は勝負に負けなかった。勝ちもしなかったが。

結果はお互い50点でドロー。しかも俺の間違ってる部分は全部百瀬が。

百瀬が間違ってる部分はすべて俺が正解していた。つまり同じ点でも全く正反対なわけだ。

その後で判ったのだが、俺の休みの日は確かに百瀬が座っていたらしい。

タイミングがいいのか悪いのか……

あまりの偶然に笑い転げた俺たちは仲良くなってしまい、今では同じ講義は一緒に受けるように
なっていた。

で、問題のあの席はどうしたかと言うと――

「これで2勝2敗っと」

「別に競争してるわけじゃないんだからさ」

「でもなんか嫌じゃない? やっぱり負けてるような気がするの」

「そーかい」

競争じゃないって言ってるのに。

このように、先に来たほうが座るということに決まった。

まあ、俺にとってはその辺りはどうでもいい事なんだが。

席のことは別に拘ってた訳じゃないし。

「ねえ……」

「何?」

授業を熱心に受けていた(フリをしていた)俺は横からの声に顔を向ける。

触れてしまいそうなほどすれすれの所に百瀬の顔があった。

「っ!! もも、せ…?」

「今度どこか遊びに行こうか?」

「え? ああ、みんな――」

「二人でだからね」

「? 他のヤツらは一緒じゃないのか?」

俺がそう言うと、百瀬は整った眉を一回顰めてから笑顔で更に顔を近づけてきた。

「お、おい、顔が近すぎるぞ」

「二人で、だからね」

「判った、判ったから」

もう一度笑いかけてから百瀬は講師に視線を戻した。

しかし、なまじ整った顔をしてるだけに間近に寄られると何もないって判ってるのにドキドキし
てしまう。

そこの所コイツはあまり判ってないんだろうなぁ……

とりあえず週末は空けておこうか、などと考えてみるのだった。


 

 

2004.8.6

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